晴耕雨読日記(仮)

以前、はてなダイアリーで書いていた「晴耕雨読」の引っ越し先です。今の生活は全くもって「晴耕雨読」ではないので、タイトルは現在思案中。

NODA MAP「パイパー」渋谷シアターコクーン

久々の野田地図。前回観たのは「贋作罪と罰」だった。その前は「オイル」なので、なんだか松たか子出演のときばかり観ていることになる。いや、たか子嬢は嫌いじゃないからいいんですけど。選んでるわけじゃないし。
ちょっと前に読売演劇大賞で主演女優賞を取った宮沢りえも出演しているので、ちょこっと期待しつつ劇場へ。


http://www.nodamap.com/site/play/35
火星の、とある街らしいところにあるストアを営むワタナベ(橋爪功)とフォボス宮沢りえ)とダイモス松たか子)の姉妹。フォボスは4歳の頃母親と火星を放浪した経験があるが、ダイモスはストアの周辺から遠くに行ったことがない。フォボスは「ペールギュント」という名前の、放浪中の恋人が帰ってくるのを待ち続けているが、帰って来るのか来ないのかわからない。
ある日、ワタナベの元に8歳(笑)の天才児、キム(大倉孝二)がやってくる。キムの巨乳の母親(佐藤江梨子)にワタナベがたぶらかされているっぽい。が、キムの天才っぷりを買ったワタナベは「死者のおはじき」で彼に火星の過去を見せ、記憶させようとする。火星人はみんな鎖骨におはじきを埋めていて、その人が観たものが記憶される。それを取り出したものをワタナベは収集していたのだ。
火星には人間がどのような経緯で移り住むことになったのか。そしてどうして今のような状況になったのかが、おはじきを通じて明らかになっていく。


……というお話。
大倉孝二が8歳というところが笑えるけど、ちゃんと8歳だった。でもあんなでかい8歳はいないね。


宮沢りえにはやられた。
宮沢りえ、というと「伊右衛門」のCMのイメージが残っていてはんなりとした人、という気がしていたのだけども。
私は今まで宮沢りえにだまされていた。というくらい気持ちよくその印象は裏切られました。
ちょっとしゃがれたドスのきいた声で拳銃をぶっ放すように話す、男っぽい姉。これも宮沢りえ。そしてあの伊右衛門の奥様も宮沢りえ
女優ってすごい。この人の芝居をもうちょっと観たいと久しぶりに思いました。


NODAMAPなので言葉遊びもふんだん。でも今回は2時間5分だからあまり長さは感じませんでした。野田さんの台詞で2時間半以上見せられるとこちらの脳みそが処理能力不足になっちゃうので。
どうにでも読み替えられる芝居だなーと思った。この芝居の世界では、パイパー値という人間の幸福度を表す数字があって、それを8888にするためにみんなで一生懸命頑張る(というか我慢する)んだけど、なんでも数値化しちゃって、本質を見失ってただ数字を追ってしまう、という光景は見覚えがあるというか、痛いというか。私の職場はなんでも数値化するところなので、まさにあんな感じですよ。8888にどんどん限りなく近くなって、みんな自分たちは幸福だと思っているんだけど、何が幸福なのか実感できなくなっている。ただ数字をあげることだけが目標。……痛い。痛すぎる。


どんどん破滅に向かっていく中で、最後に少しだけ明るい未来への兆しがあって、それは救われました。
「希望は絵空事よ。絶望と同じくらい」というフォボスに対して、「でも忘れた頃に、希望って咲くよ」というダイモスペールギュントが帰ってきて、火星の大地には百合の花が咲く。
人間はたくましい。いいお芝居を観ました。